「パラメータ特許」という言葉は法令によって特に定義された用語ではなく、実務上、便宜的に用いられている語句です。そのため、この語句の意味するところは人によって違いがありますが、ここでは、かなり広く考えることにして、数値範囲や数式などといった数量的表現により特定される発明(数値限定発明)に関する特許というように考えます。つまり、特許請求の範囲(請求項、クレーム)に、数値範囲や数式が記載されていれば、その発明は数値限定発明(パラメーター発明)であり、その発明に関する特許をパラメータ特許と呼ぶようにします。
例えば、材料の比率、長さや厚みなどの寸法、あるいは、従来は測定することがなかった新たな測定項目による特定など、種々のパラメータが存在します。請求項にパラメータを記載して発明を特定しようとすること自体は法律で認められています。
請求項では特許を受けようとする発明を明確に特定しなければいけません。パラメータ特許では、請求項に数値があらわれますから、発明の明確性という観点から好ましいように思われるかもしれません。
しかし、パラメータ特許には一筋縄ではいかない課題がいくつも隠れていて、ときに、足元をすくわれることがあるのです。
パラメータ特許にかかわる大きな問題は、公知の発明があたかも新規であるかのように見られる場合があり得ることです。例えば物の発明を特定するときに、数値範囲を定めるパラメータはある意味では無限に設けることができます。そして、先行技術文献には、発明の対象となる物や方法についてのあらゆるパラメータを記載することは不可能です。当たり前であると思われる物性値についても文献に記載されていないことがままあります。そのため、既に公知であろうと思われる発明であっても公知であることの根拠をもとめることが意外に難しくなりがちです。
また、発明が新規であることが判明した場合に、進歩性を如何に判断するべきかという問題が生じます。請求項に記載するパラメータを特殊なものにすると、公知の発明との相違が著しいものに見せかけることができてしまいます。公知発明の追試を行うことによって、このような特殊なパラメータにより特徴付けられた発明が新規であることが判明したときに、進歩性を否定する理論の組み立てが意外に困難になることがあります。
また、「時速800kmで走行することができる電車」などの「願望クレーム」があらわれやすい傾向があります。発明を特定するために用いるパラメータの選択の余地が多すぎるために、かえって検討不十分になって発明の課題と解決手段の混同が生じやすいのかもしれません。
他社の特許を監視する立場からみると、パラメータ特許の権利範囲は具体的なモノを想定しにくいという側面があります。自社の製品が権利範囲に属しているか否かが直感的には分からず、測定してみないと分からないことがあります。こういったことも、パラメータ特許に関連する問題点として挙げられます。
実務上でやっかいなことは、以上のような問題は、出願段階や特許の審査段階では見過ごされがちであり、具体的な相手方が出現する権利活用段階になって問題があらわになることがある点です。