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パラメータ特許の新規性・進歩性について

パラメーター特許についても、それ以外の発明の場合と同様に新規性、進歩性をそなえることが必要です。このページでは、特許法第29条で規定される新規性・進歩性について説明します。詳しくは、対象となる特許(出願)の出願時に既に公に知られていた発明に対して新規であり、発明容易では無いかということを扱います。なお、出願時に公知ではなかった発明に対する問題については、先願(39条)、拡大先願(29条の2)で詳しく説明します。

公知技術に対しては新規性・進歩性の区分けはあまり意味がない

公知発明に対しては、新規性と進歩性の両方を有していないと特許になりません。その意味で、どこまでが新規性の問題であり、どこからが進歩性の問題であるか、といった議論はあまり意味がありません。とりわけ、数値限定発明・パラメータ発明については、数値を変更すれば「形式的な意味で」公知発明との区別を付けることも可能ですが、それでは特許になりません。

公知技術と同じものは特許にならない
−パラメータの「発見」−

ある技術について、「あらゆる」パラメータを網羅的に記載することはできません。また、測定技術の進歩などにより、従来公知のものについて新しいパラメータを測定することが可能になるかもしれません。しかし、先行文献に数値が書いていなくても、先行技術と同じ技術(物、方法)、先行技術文献に具体的に開示されている物・方法と同一である場合は、特許を取得することはできません。これは「新規性なし」です。

公知技術とは物・方法が異なる場合
−構成の相違を見つける−

単に「数値が書いていない」だけではなく、具体的な構成が先行技術と異なっているのであれば、特許の取得について検討の余地があります。
この場合、先行技術と、対象となる特許(出願)の発明とを対比して、両者の相違点を見出します。その相違点が、「数値を定めること」だけであるとか、「数値範囲」が異なるだけである場合には、その数値範囲の設定による固有の効果を検討することになります。

いっぽう、数値限定以外の構成にも相違点がある場合には、その数値限定以外の相違点に着目する方が発明の特許性を見出しやすいでしょう。数値限定以外にも構成に相違点があって、その数値限定以外の相違点に関して対象とする特許(出願)の構成を採り入れることが容易ではないのであれば、数値限定部分についての臨界的な意義や顕著な効果は不要です。

相違点が数値限定のみである場合
−数値限定に臨界的意義を要する場合と不要な場合−

先行技術と対象とする特許(出願)との相違点が「数値範囲を設定したこと」あるいは「具体的な数値が異なること」だけである場合には、原則として、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することには、進歩性はないものと考えられます。

先行技術と対象とする特許(出願)との相違点が「数値範囲を設定したこと」あるいは「具体的な数値が異なること」だけである場合には、以下のような特別な事情が無ければ、原則として、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することには、進歩性はないものとして扱われます。

数値限定を設けたことのみが公知発明と異なる発明について、進歩性を有する基準は次のとおりです。
対象とする発明が、公知発明の効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測できたものでないときは、進歩性を有する。

対象とする発明の効果が、公知発明の効果と「同質であるが際立って優れる」という場合が、いわゆる、「臨界的意義を要する」ということです。

対象とする発明の効果が、公知発明の効果とは「異質」である場合には、いわゆる、「臨界的意義」は要りません。

数値限定発明の効果の有利性(異質性又は顕著性)の検討時の留意事項
−請求項全範囲で成り立つ効果であるか?−

数値限定発明の特許性を考える時、「効果がいかに異質であるか」とか「どれだけ顕著であるか」といったことはよく検討されます。この時に行うべきことは、「そのような効果は、請求項の全範囲で発揮される効果ですか?」という自問自答です。この留意事項には2つの意味があります。

、一点目は、「その効果は請求項で定めた数値範囲の全域で発揮されるのか?」ということです。数値限定発明(パラメータ発明)の検討をしている以上、こちらの検討は比較的丁寧に行われることが多いです。

二点目は、「その効果を発揮するために、請求項にさらに付与すべき特定事項は無いか?」ということです。こちらは、記載していないことについて不足が無いかどうかを検討することになるので、難しいです。「有利な効果」を発揮するためには当然であると考えている条件が請求項に書いていなければ、その効果は「請求項の全範囲で」成立するとはいえないので、「請求項記載の発明の効果」とは言えません。このことは、請求項の範囲には、せっかく特許にできる部分があるにもかかわらず、請求項全体としては進歩性なし、という結論に至る事例が生じることを意味します。「どのような有利な効果があるか」という検討と、「効果発現のために必要な構成が欠けているのではないか?」という自問自答を同時に行うのはなかなか難しいものです。

パラメーター特許

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